ブランド戦略に予算は必要か|「高級品向け」「マス広告が必須」という3つの誤解
日経クロストレンド 連載「仕事に役立つ知識の『書棚』」(2026年3月19日)にて、当社代表が寄稿しています。
ブランド戦略という言葉に対して「うちには関係ない」と反応が返ってくることがあります。その背景には、費用、対象商品、手法についての誤解があります。誤解を外すと、主な作業は新しい施策を足すことではなく、すでにある顧客接点を整えることだと分かります。
この記事の要点
ブランド戦略の中心は新規予算の投入ではなく、既存の顧客接点で与えている印象を整えることです。
したがって基本的なコストは、社内のすり合わせと調整にかかる費用になります。
安さを価値として掲げる企業も成立しているため、高級品に限った話ではありません。
マス広告を使わずに強いブランドを築いた企業があるため、広告が必須条件でもありません。
こんな方におすすめ
ブランド戦略に関心はあるが、予算が確保できないため着手していない方
自社は低価格帯なのでブランド戦略は関係ないと考えている事業責任者の方
広告費を増やさずにブランドを強くする方法を探している方
前提となる3つの用語
顧客体験とは
顧客体験とは、顧客が商品やサービスに関わるすべての過程で得る経験である。購入の場面だけでなく、知る、比べる、使う、問い合わせるといった前後の過程を含む。ブランドの印象はこの全体から形成されるため、広告だけを整えても印象は変わらない。
顧客接点とは
顧客接点とは、顧客が企業や商品に触れるすべての場所と機会である。商品そのもの、店舗、広告、営業、接客、問い合わせ窓口、そして他人の口コミも含まれる。ブランド戦略で整える対象は、この一つひとつが与えている印象になる。
ポジショニングとは
ポジショニングとは、競合との違いを顧客の頭の中でどう位置づけるかを決めることである。安さ、品質、専門性、手軽さなど、選ばれる理由を1つに定める作業にあたる。高価格帯を選ぶ必要はなく、安さを位置づけ として定めることも成立する。
論点の背景
ブランド戦略が敬遠される理由は3つに整理できます。費用がかかると考えられていること、高級品のための話だと思われていること、マス広告が前提だと思われていることです。
しかし本質を一言でいえば、狙う価値を決めたうえで、その印象が残るようにすべての顧客体験と施策に一貫性を持たせることです。つまり実際の作業は、既存の商品やサービス、広告、営業、接客といったあらゆる顧客接点で与えている印象を整えることが主になります。だとすれば、基本的なコストは社内のすり合わせと調整にかかる費用です。
高級品に限るという点についても、当社代表は本編でこう述べています。
「単価が高くなくても、プレミアムや高級さが売りでなくても、ブランド戦略がビジネスをうまくサポートする役割を担うことに変わりはありません」 出所:日経クロストレンド「仕事に役立つ知識の『書棚』」(2026年3月19日)
マス広告が必須という前提は、広告市場の構成からも崩れています。2025年のマスコミ四媒体広告費は2兆2,980億円で前年比98.4パーセント、総広告費8兆623億円に対する構成比は3割を下回りました。一方でインターネット広告費は構成比50.2パーセントで初めて過半に達しています。接する経路が分散したということは、マス広告を持たない企業にも接点を設計する余地が広がったことを意味します。 出典:株式会社電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日)
実務での判断軸
1.選ばれる理由を1つに決められているか。
複数の価値を同時に掲げると、接点ごとに違う印象が残ります。安さでも、専門性でも、手軽さでも構いません。1つに定めることが、その後の判断すべての基準になります。
2.いま与えている印象を棚卸しできて いるか。
商品、価格、店舗、広告、営業、接客、問い合わせ対応を並べて、それぞれがどの印象を与えているかを書き出します。ここで矛盾が見つかれば、追加予算なしで直せる箇所が出てきます。
3.社内の調整に時間を確保できているか。
接点を整える作業は複数部門にまたがります。費用ではなく調整の時間が主なコストになるため、着手前にその時間を見込んでおく必要があります。ここを軽く見ると、決めたことが現場に反映されません。
この3つのうち最も飛ばされやすいのは2です。理想を語る作業は着手しやすい一方、現状を並べる作業は地味で、都合の悪い矛盾も出てくるためです。
編集部おすすめポイント
ブランド戦略の入門的な解説は数多くありますが、着手しない理由を正面から扱ったものは少ないものです。本編は3つの誤解を1つずつ取り上げ、それぞれに具体的な反証を挙げています。社内で「うちには関係ない」という反応に直面している方には、説明の材料になります。
本編で読めること
本編では、次の問いに対する答えが具体例とともに示されています。
安さを価値として掲げて成立している企業は、何を一貫させているのか
日本でマス広告が前提とされやすいのは、どのような構造によるものか
マス広告をほとんど使わずに強いブランドを築いた企業は、代わりに何に投資したのか
顧客接点の一貫性は、どの単位で点検すればよいのか
ブランド力を高めることで何が変わるのかについては、同じ連載の続きの回で扱っています。
よくある質問
Q. 予算をかけずにブランド戦略に着手できるのですか。
A. 着手はできます。中心の作業が既存の顧客接点で与えている印象を整えることなので、主なコストは社内の調整にかかる時間です。ただし整えた内容を広く知らせる段階では、費用の検討が必要になります。
Q. 低価格帯の商品でもブランド戦略は必要ですか。
A. 必要です。安さを価値として掲げることも位置づけの1つであり、「いつ行っても安い」と思い出してもらうこと自体がブランドの働きです。単価の高さは条件ではありません。
Q. マス広告を使わない場合、何に投資すればよいのですか。
A. 顧客が実際に触れる場所に投資するのが基本です。立地、店舗そのもの、接客、商品体験などが対象になります。広告の代わりに、これらが認知を運ぶ役割を担います。
インサイトフォース山口の、「悪魔の事典」
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執筆者
インサイトフォース編集部 |
ブランド戦略とマーケティング組織の設計を専門とするコンサルティングファームです。事業戦略とブランドを接続する支援を中心に、経営層、事業部門、マーケティング部門の橋渡しを担ってきました。本記事は、当社代表による日経クロストレンドへの寄稿をもとに、編集部が要点と判断材料を整理したものです。 |
掲載情報
媒体 | 日経クロストレンド |
連載 | 仕事に役立つ知識の「書棚」 |
公開日 | 2026年3月19日 |
掲載形式 | 寄稿 |
