経済合理性だけでは抜け出せない|模倣が速い市場でブランドが残る3つの条件
NewsPicksアカデミアのイベント「新しいカルチャーを創るブランド戦略」に、当社代表取締役・山口義宏が登壇しました。以下は、山口が公開している導入の論考をもとに、論点を実務で使える形に整理したものです。
売れているものは、すぐに真似されます。真似される速さが上がるほど、似たもの同士の値下げ合戦になり、稼げる期間が短くなります。そこから抜けるために何を持てばよいのかを、判断の順序として整理しました。
この記事の要点
経済合理性だけで判断すると、売れた商品を追う動きが重なり、模倣の応酬から抜けられません。
ブランドの作り方には、思想を先に置く型と、市場の需要に合わせる型の2つがあります。
どちらが優れているかではなく、自社がどちらで戦っているかを言えることが先です。
文化と呼べるところまで支持が育つと、比較の土俵から外れ、名前で選ばれるようになります。
こんな方におすすめ
競合と似た商品になり、値下げでしか差がつかなくなっている事業責任者の方
ブランドの世界観を掲げているが、事業の判断とつながっていないと感じている方
自社の強みを説明するとき、価格と機能以外の言葉が出てこないマーケティング担当の方
前提となる3つの用語
マスターブランドとは
マスターブランドとは、企業名と商品・サービスの名前が一体になっているブランドの持ち方のことである。個々の商品ごとに別の名前を立てる持ち方と違い、企業全体の思想がそのまま商品の意味づけになるため、判断の一貫性が問われやすい。
指名買いとは
指名買いとは、買う側が比較検討を経ずに、あらかじめ決めた商品や店を選んで買う行動のことである。比較の土俵に乗らないため価格競争の影響を受けにくく、ブランドが機能しているかどうかを見るときの分かりやすい手がかりになる。
ファストファッションとは
ファストファッションとは、流行を短い周期で取り込み、低価格で大量に供給する衣料品の売り方のことである。企画から店頭までの期間を極端に縮めた業態であり、模倣の速さが商品の価値をどれだけ早く目減りさせるかを示す例として挙げられることが多い。
論点の背景
売り上げを伸ばしながら、同時に人々の価値観にまで影響を与えているブランドは、世の中にそれほど多くありません。小さな範囲で熱心に支持される事業は数多くありますが、規模を大きくしていく過程で、支持されていた理由のほうが薄まっていく からです。
薄まる理由のひとつが、判断の基準を経済合理性だけに置くことです。売れている商品を見つけて、似たものを早く出す。この判断はその時点では正しく見えます。ただし同じ判断を全員が取るため、市場には似た商品が並び、差がつくのは価格だけになります。
真似する側の速さも上がり、投資を回収できる期間そのものが短くなっています。そこで出てくるのが、比較の土俵から外れるという考え方です。名前で選ばれる状態をつくれていれば、似た商品が並んでも判断の材料になりません。
特許庁の調査では、回答した4,890者のうち模倣被害があったと答えたのは722者で14.8パーセントでした。一方、被害を受けた717者のうち被害額を把握しているのは69者、9.6パーセントにとどまっています。模倣は起きているのに、実害を金額で捉えている企業は1割に届いていません。 出典:特許庁「令和7年度(2025年)知的財産活動調査 結果の概要」(2026年7月24日)
実務での判断軸
1.自社がどちらの型で戦っているかを言えるか。 思想を先に掲げてそれを広げる型と、すでにある需要に合わせて事業を広げる型では、判断の主従が逆になります。どちらを選んでも構いませんが、選ばないまま両方を口にすると、社内の判断が毎回ぶれます。
2.経済合理性を外す場面を、あらかじめ決めてあるか。 すべての判断を合理性で通すと、他社と同じ結論に行き着きます。どの領域なら短期の数字を手放せるのかを先に決めておかないと、その判断は毎回「今回は例外」として扱われ、積み上がりません。
3.支持の広がりを、比較されない度合いで見ているか。 認知が増えても、比較の土俵に乗ったままなら価格の話に戻ります。比較検討を経ずに購入された割合を見ると、支持がどこまで文化に近づいているかが分かります。
3つに共通するのは、何を捨てるかを先に決め ておく姿勢です。模倣が速い市場では、全部に合理的であろうとするほど他社と同じ形に近づきます。捨てる領域を決めることが、そのまま残るための条件になります。
編集部おすすめポイント
この掲載は、規模の拡大と文化の形成という、両立しにくい二つを同時に扱っている点が特徴です。成功した企業の紹介ではなく、なぜ両立が難しいのかという構造のほうから説明されているため、自社がどこでつまずいているかを当てはめて読めます。
悪魔の事典
書き出し
本編で読めること
ここでご紹介したのは、判断の枠組みにあたる部分です。本編では、次の問いに対する答えが示されています。
規模を大きくしながら支持を保つために、何を変えずに置いたのか
思想を先に置く型と需要に合わせる型は、社内でどう使い分けられているのか
模倣されたとき、値下げ以外にどの手が残るのか
支持が文化と呼べる段階に入ったかどうかを、何で見ているのか
本編はNewsPicksアカデミア会員向けの動画です。無料で読めるのは、ここで扱った導入の論考までになります。
よくある質問
Q.経済合理性で判断することの何が問題なのでしょうか。
A.判断そのものは問題ありません。問題は、全社が同じ基準で判断すると結論が揃い、差がつくのが価格だけになることです。どの領域なら合理性を外すのかを決めているかどうかが分かれ目です。
Q.思想を掲げる型のほうが優れているということでしょうか。
A.そうではありません。需要に合わせて広げる型でも、事業として成り立ちます。問題になるのは、どちらで戦うかを決めないまま両方の言葉を使い、社内の判断基準が場面ごとに入れ替わることです。
Q.文化と呼べる状態になったかどうかは、どう確かめればよいでしょうか。
A.売り上げの伸びでは分かりません。比較検討を経ずに選ばれた割合や、価格が上がっても離れなかった顧客の割合を見てください。比較されない度合いが、支持の質を示します。
執筆者
インサイトフォース編集部 | ブランド戦略とマーケティング組織の設計を専門とする編集部が、掲載記事の論点を実務で使える形に整理しています。 |
掲載情報
媒体 | NewsPicks(NewsPicksアカデミア) |
記事 | Apple、NIKEが実践する「カルチャーを創るブランド戦略」 |
掲載形式 | イベント動画(当社代表が登壇) |
公開範囲 | 導入の論考は無料。本編動画はアカデミア会員限定 |
