撤退基準を先に決めておく理由|事業ポートフォリオの投資配分が動かなくなる2つの原因
日経クロストレンドの連載にて、当社代表取締役・山口義宏による寄稿記事「『撤退基準』のルール化が必要な2つの理由 成果を変える正しい投資判断」が掲載されています。
事業やブランドを増やす判断は前向きな話なので進みます。止める判断は誰かの責任に触れるため進みません。この非対称が、限られた資源を成長領域へ動かせなくする原因になります。
この記事の要点
始める 判断はしやすく、止める判断は社内政治的にしにくいという非対称があります。
放置すると事業とブランドが増え続け、資源が分散して成長が減衰します。
投資配分は現在の規模ではなく、将来の伸びしろで決める必要があります。
基準をルール化しておくと、個人の主張ではなく規定として判断を切り出せます。
こんな方におすすめ
事業やブランドの数が増え、投資配分の見直しが進まないと感じている経営層の方
撤退の提案が社内で通らず、判断が先送りされている事業企画の方
成長段階に応じた指標と体制の切り替えが属人的になっている組織の方
前提となる3つの用語
サンクコストとは
サンクコストとは、すでに投じてしまい回収できない費用のことである。撤退の判断ではこの費用を考慮に入れないことが合理的だが、投じた経緯に関わった人がいる組織では、心理的に切り離すことが難しくなる。
暗黙知とは
暗黙知とは、経験のなかに蓄えられていて言葉や手順に落ちていない知識である。事業の成長段階ごとにどこへ力点を移すかという判断は、この形で個人に残りやすく、組織として継承されないという問題を生む。
PDCAとは
PDCAとは、計画、実行、評価、改善の4段階を繰り返す進め方である。運用型の施策では現場がこのサイクルを回し、成果の出た施策への投資拡大と、出ない施策の縮小や見直しを継続的に判断する。
論点の背景
一定の規模を超えた企業が多角化によって成長を続けられるかどうかは、限られた人と資金と時間を成長領域へ投じ続けられるかにかかっています。この配分の変更が機能するかどうかが、中期の業績に最も大きく影響します。
配分が動かない理由は2つあります。1つは、撤退の意思決定 が誰かの責任の追及を伴うため、社内政治的に判断しにくいことです。もう1つは、放置すると事業とブランドが増え続け、資源を浪費した結果として成長が減衰することです。
投資の側にも同じ構造があります。資源の配分は現在の売上や収益だけでなく、将来の伸びしろで決めるべきものです。しかし現在は事実であり将来は予測であるため、判断は現在の規模に引っ張られます。加えて成長段階ごとに強化すべき施策と指標と体制は変わるのに、その知識が個人に残りやすく、変化に適応できる人が育ちません。
東京証券取引所は2025年9月26日、グロース市場の上場維持基準を上場から5年経過後の時価総額100億円以上へ見直すことを公表しました。見直しの趣旨には、企業間の合併や買収と、起業家の次の創業を促進する観点が挙げられています。 出典:東京証券取引所「グロース市場の上場維持基準の見直し等について」(2025年9月26日)
実務での判断軸
1.撤退の基準を明文化して定期的に確かめているか。 私がそう思うという主張よりも、規定に抵触しているという説明のほうが通ります。基準を明示してルール化し、定期的に確認する仕組みを作ることで、個人が責任を負わずに判断を切り出せる状態になります。
2.将来の伸びしろを現在の規模と分けて評価しているか。 現在の売上と収益は事実 として提示できますが、将来は予測にとどまります。この非対称のまま議論すると、判断は必ず現在の規模へ寄ります。評価の場を分けるか、伸びしろの評価に別の指標を置く設計が必要です。
3.成長段階ごとに指標と体制を切り替えているか。 同じ事業でも、立ち上げ期と成長期と成熟期では強化すべき施策が変わります。その知識が個人の経験に残っていると、担当が変わるたびに判断の質が落ちます。段階ごとの力点を共有できる形に落とす作業が必要になります。
この判断は経営層だけの話ではありません。運用型の施策で改善のサイクルを回す現場も、成果の出た施策への投資拡大と、出ていない施策の縮小や撤退を日々判断しています。対象の単位が違うだけで、判断の性質は同じです。
編集部おすすめポイント
撤退の基準づくりは、成長企業の事例として語られることが多くありません。本編では、多角化を進めながら投資配分の健全さを保つために独自の管理制度を運用している企業の取り組みが紹介されています。自社の判断がどこで止まっているかを照らす材料になります。
悪魔の事典
書き出し
本編の続きで読めること
ここでご紹介したのは、判断の枠組みにあたる部分です。本編では、次の問いに対する答えが示されています。
撤退の基準は、どのような形でルール化すると機能するのか
将来の伸びしろを主張しにくい組織文化は、どこから変えるのか
多角化した企業で投資配分の成否を 分けるのは、どの要素か
現場の判断と経営の判断は、どこでつながっているのか
本編は日経クロストレンドの有料会員限定記事です。
よくある質問
Q.撤退の基準を作ると、挑戦しにくい空気になりませんか。
A.逆に働きます。基準がないと撤退の判断が個人の責任になるため、誰も言い出せないまま資源が固定されます。基準があれば規定に沿 った判断として処理できるため、始める側も止める前提を織り込んで着手できます。
Q.将来の伸びしろを、どう評価すれば説得力を持ちますか。
A.現在の実績と同じ場で並べると、必ず事実の側が強くなります。評価の場を分けるか、伸びしろに対して別の指標を置いてください。実現しなかったときに個人の責任にならない設計を先に作ることも必要です。
Q.経営層ではないので、投資配分の話は関係ないのではないでしょうか。
A.対象の単位が違うだけで、判断の性質は同じです。施策の改善サイクルを回す現場も、成果の出た施策への投資拡大と、出ていない施策の縮小を日々決めています。限られた時間と資金と人をどこに向けるかという判断は変わりません。
執筆者
インサイトフォース編集部 | ブランド戦略とマーケティング組織の設計を専門とする編集部が、掲載記事の論点を実務で使える形に整理しています。 |
掲載情報
媒体 | 日経クロストレンド |
記事 | 「撤退基準」のルール化が必要な2つの理由 成果を変える正しい投資判断 |
掲載形式 | 寄稿 |
公開範囲 | 日経クロストレンド有料会員限定 |
