ラグジュアリーブランドはなぜ採算の合わない投資をするのか|価値が生まれる3つの経路
NewsPicksにて、当社代表取締役・山口義宏と、ラグジュアリー領域の小売企業の担当者による対談が掲載されています。
売場の一等地に商品を置かず、手の込んだ展示に費用と時間をかける。採算の観点だけで見れば説明のつかない判断が、ラグジュアリーの領域では価値の源泉になっています。何がその差を生んでいるのかを整理します。
この記事の要点
採算に合わない投資が、ラグジュ アリーの領域では価値を高める方向に働くことがあります。
価値は商品そのものだけでなく、商品が置かれている環境の質からも生まれます。
小売の価値は、何を選んで並べるかという編集の判断に支えられています。
一度失った格の認識を取り戻すことは、築くことよりも難しくなります。
こんな方におすすめ
価格ではなく価値で選ばれる状態をつくりたいと考えている事業部門の方
売場や店舗への投資を、採算の指標だけで評価することに違和感がある方
自社の品ぞろえに一貫した基準を持てているか確かめたい小売業の方
前提となる3つの用語
ブランドステートメントとは
ブランドステートメントとは、そのブランドが何を大事にしているかを短い言葉で示した宣言のことである。掲げるだけでは機能せず、品ぞろえや売場のつくり方といった個別の判断がその宣言と一致して初めて意味を持つ。
セレクトショップとは
セレクトショップとは、自社で商品を製造するのではなく、複数の作り手から自らの基準で選んだ商品を集めて販売する小売の形態である。何を選び、何を選ばなかったかという判断そのものが価値の中身になる。
世界観とは
世界観とは、そのブランドに触れたときに感じ取られる雰囲気や価値観のまとまりのことである。言葉で説明されるものではなく、空間、品ぞろえ、接客といった要素の積み重ねから受け手の側に形づくられる。
論点の背景
商品を作る企業と、商品を選んで売る企業とでは、価値の生まれ方が異なります。作る側は商品そのものに価値を付け加えられますが、選ぶ側の価値は、何を集めて何を外したかという判断に宿ります。この違いを踏まえないと、小売への投資は単なる費用として扱われます。
この掲載で語られているのは、売場に商品を置かないという判断です。並べようと思えばいくらでも並べられる場所を展示に充て、手の込んだ制作に時間をかける。採算の観点では説明がつきませんが、その説明のつかなさ自体が、他社との差として認識されます。
もう一つの論点は、格の認識が一方向にしか動きにくいことです。掲げる基準を緩めれば短期の収益は上がりますが、一度緩んだ認識を元に戻すことは難しくなります。基準を守るための我慢は、将来の選択肢を確保するための判断でもあります。
2026年7月の全国百貨店売上高は総額4,889億円余で、前年同月比5.1パーセントの増加でした。商品別ではラグジュアリーブランドのバッグ等が国内外ともに好調とされており、高額な商品への需要は堅調に推移しています。 出典:日本百貨店協会「2026年7月 全国百貨店売上高概況」(2026年8月25日)
実務での判断軸
1.商品だけでなく、商品が置かれる環境に投資しているか。 同じ商品でも、置かれる場所の質によって受け取られ方が変わります。細部の違いが分からない相手にも、全体の印象は伝わります。環境への投資を費用として切り詰めると、商品の価値まで目減りします。
2.選ばなかったものを説明できるか。 並べた商品の説明はどの企業もできます。差が出るのは、置けたはずなのに置かなかったものを説明できるかどうかです。外す基準を言語化できていない品ぞろえは、掲げている価値と一致しなくなっていきます。
3.短期の収益のために基準を緩めていないか。 掲げた基準を緩めれば、当面の収益は上がります。ただし緩んだ認識は簡単には戻りません。いま得られる収益と、将来取り得る選択肢のどちらを優先するかの判断になります。
3つに共通するのは、価値が積み上がるまでの時間の長さです。環境への投資も基準の維持も、短い期間では成果として測れません。測れないものにどこまで資源を割くかが、この領域の判断の中心になります。
編集部おすすめポイント
この掲載の価値は、採算では説明できない投資を感覚ではなく仕組みとして語っている点にあります。ラグジュアリーの領域に限らず、価格以外の理由で選ばれたい企業にとって参照できる論点が並びます。自社が守っている基準を言葉にできるかを確かめる材料として読めます。
悪魔の事典
書き出し
本編で読めること
ここでご紹介したのは、判断の枠組みにあたる部分です。本編では、次の問いに対する答えが示されています。
採算に合わない投資は、どこまでなら正当化できるのか
小売における編集の基準は、どうやって社内で共有するのか
格の認識が下がったとき、取り戻すために何が必要になるのか
環境への投資の効果は、どのように確かめるのか
本編はNewsPicksのブランドデザイン面で公開されており、無料で読めます。
よくある質問
Q.採算に合わない投資は、社内でどう説明すればよいでしょうか。
A.効果が出るまでの時間の長さを前提に置いた説明が必要です。短い期間で回収する投資と、選ばれる理由を積み上げる投資は、別の枠で評価してください。同じ指標で並べると、後者は必ず削られます。
Q.自社は高額帯の商材ではありません。この論点は関係がありますか。
A.価格帯の問題ではありません。価格以外の理由で選ばれたい企業であれば、同じ構造が当てはまります。何を選び、何を外すかという基準を持てているかが要点です。
Q.掲げている価値と日々の判断がずれていないか、どう確かめますか。
A.置かなかったもの、断った企画、採用しなかった表現を並べてみてください。外した理由が掲げている価値で説明できるのであれば一致しています。説明できないものが増えているなら、基準が緩み始めています。
執筆者
インサイトフォース編集部 | ブランド戦略とマーケティング組織の設計を専門とする編集部が、掲載記事の論点を実務で使える形に整理しています。 |
掲載情報
媒体 | NewsPicks |
記事 | 【対談】「経済合理性」を突き抜けた先に、強いブランドが生まれる |
掲載形式 | 対談 |
公開範囲 | 無料 |
