ブランドの売上が落ちたとき最初に見る場所|休眠顧客はどこにいるのか
日経クロストレンドの連載にて、グロースX取締役COOとしての立場から当社代表取締役・山口義宏が「一貫性に固執するとブランディングは失敗する」を解説しています。
長く売れてきた商品の売上が落ちるとき、原因は味や品質への不満ではないことが多くあります。自覚のないまま使う習慣を失った層が、市場に大きく残っている状態です。
この記事の要点
定番商品の売上低下は、不満ではなく習慣の自然な消滅から起きることが多くあります。
回復の鍵は、離脱したまま市場に残っている休眠顧客に再び手を取ってもらうことです。
ロゴやパッケージの変更が主な原因になっている例は、非常に少ないです。
一貫性を守ることに固執すると、市場の機会を逃して結果的にブランド力も落ちます。
こんな方におすすめ
長く売れてきた商品の売上が下がり、原因の切り分けができていない担当の方
パッケージの刷新や高級路線への転換を検討している商品担当の方
ブランドの一貫性と市場への適応の間で判断に迷っている方
前提となる3つの用語
チャーンレートとは
チャーンレートとは、一定の期間に顧客が離脱した割合である。解約という明確な行為がない商材では観測しにくく、購入の間隔が伸びていく過程として現れるため、把握が遅れやすい。
サウンドロゴとは
サウンドロゴとは、音によってブランドを識別させる短い音や旋律である。画面を見ていない状態でも、その音を聞くことで対象のブランドが思い浮かぶようになるため、視覚以外の識別の手がかりとして使われる。
ロングセラーとは
ロングセラーとは、長い期間にわたって売れ続けている商品である。顧客の頭のなかで識別の記号と受け取られている価値が強く結びついているため、その2つを安易に変更すると、かえって選ばれにくくなる。
論点の背景
食品や飲料の定番品で売上が下がっているとき、要因として多いのは使う習慣が自然に消えていくことです。既存顧客が味に大きな不満を持ったわけでも、はっきりしたきっかけがあったわけでもないまま、購入の頻度が下がっていきます。
長く売れてきた商品ほど、味としては好みの範囲に入っていながら接する機会が減って離脱したままの層が、市場に大きな量で存在します。この層に再び手を取ってもらい、習慣を取り戻すことが回復の鍵になります。
そのために必要なのは2つです。店頭の棚に置かれて手に取りやすい環境と、もう一度手に取るきっかけです。デザインの刷新や高級路線への転換は、どちらも顧客のなかで結びついている記号と価値を動かす行為に当たるため、この目的に対しては効きにくくなります。
2024年の国内のBtoC電子商取引の市場規模は26.1兆円で前年比5.1パーセント増となった一方、EC化率は9.8パーセントにとどまっています。多くの商材では購入の主な場が店頭に残っており、棚に置かれるかどうかが依然として効きます。 出典:経済産業 省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日)
実務での判断軸
1.売上低下の原因を習慣の消滅と満足度の低下で切り分けたか。 不満によって離れているのか、自覚なく習慣を失っているのかで打ち手は変わります。不満が原因なら商品そのものの改善が必要です。習慣の消滅なら、手に取るきっかけをどう作るかが論点になります。
2.記号を変える前に価値の側を点検したか。 ロゴやパッケージの変更が売上低下の主な原因になっている例は少ないです。長く売れてきた商品ほど記号と価値の結びつきが強く、安易に変えると顧客のなかで両者がずれて選ばれにくくなります。
3.一貫性へのこだわりが機会損失になっていないか。 一貫性を維持することは原則ですが、市場のニーズは変わり続けています。こだわりすぎた結果として売上が頭打ちになるなら本末転倒です。支持する層が狭い範囲に留まっているなら、対象を変える判断もあり得ます。
ここで聞くべき相手は、減り続けている自社の顧客ではありません。比較検討したうえで買わなかった層の意見に、競争力を取り戻す手がかりが残っています。残った顧客の声だけに合わせると、縮小する方向へ最適化してしまいます。
編集部おすすめポイント
この記事はクイズから始まる形式で、定番商品の売上が落ちたときの選択肢を4つ並べて考えさせる構成になっています。本編では、ブランドを識別の記号と受け取られている価値の2つに分ける枠組みと、調査で聞くべき相手の選び方まで解説されています。
悪魔の事典
書き出し
本編の続きで読めること
ここでご紹介したのは、判断の枠組みにあたる部分です。本編では、次の問いに対する答えが示されています。
定番商品の売上を回復させる打ち手として、何が最初に来るのか
ブランドを2つの要素に分けると、どこを変えるべきか判断できるのか
一貫性の維持と市場への適応は、どこで折り合いを付けるのか
調査で聞くべき相手は、どのように選ぶのか
本編は日経クロストレンドの有料会員限定記事です。2024年2月に公開された連載の記事を一部改訂して再掲載したものです。
よくあるご質問
Q.売上が落ちたので、まずパッケージを刷新しようと考えています。
A.順序としては後になります。定番品の売上低下で、ロゴやパッケージのデザインが主な要因になっている例は非常に少ないです。刷新に失敗すると売上がさらに下がることもあるため、習慣の消滅か不満かの切り分けを先に行ってください。
Q.高級路線の商品を追加するのは有効でしょうか。
A.誤りとは言い切れませんが、確認が先に必要です。その商品を支持してきた顧客が高級路線を望んでいるかを調査で確かめてから着手してください。多くのブランドでは高級化は望まれていません。
Q.休眠顧客に戻ってもらうには、何を用意すればよいでしょう か。
A.手に取りやすい環境と、もう一度手に取るきっかけの2つです。きっかけを作る打ち手は、既存の定番品を維持したうえで一定の周期で用意する形が現実的です。種類を増やし続けると収益の面で弊害が出ます。
執筆者
インサイトフォース編集部 | ブランド戦略とマーケティング組織の設計を専門とする編集部が、掲載記事の論点を実務で使える形に整理しています。 |
掲載情報
媒体 | 日経クロストレンド |
記事 | 一貫性に固執するとブランディングは失敗する 継続成長に2つの観点 |
公開日 | 2025年4月23日(2024年2月公開の連載記事を一部改訂して再掲載) |
掲載形式 | 解説(記事中の肩書はグロースX取締役COO) |
公開範囲 | 日経クロストレンド有料会員限定 |
