パーパス経営は何に効くのか|ブランディングの成果指標を対象ごとに分ける
日経クロストレンドの連載にて、当社代表取締役・山口義宏による寄稿記事「ブランディングの正しい成果指標 『パーパス』の売り上げ貢献は限定的」が掲載されています。
ブランディングで最初に決めるのは施策ではなく、どの相手からどの成果を引き出したいのかという対象の設定です。ここを飛ばすと、置く指標も打つ手も合わなくなります。
この記事の要点
ブランディングの施策と指標は 、対象とする相手によって大きく変わります。
顧客の獲得と維持を目的とする場合、パーパスの制定が正解になる例は限られます。
パーパスが効くのは採用と投資家向けで、自社の存在意義を短く伝える用途です。
対象を決めないまま範囲を広げると、相談先の選定まで誤りやすくなります。
こんな方におすすめ
パーパスの策定を検討していて、何を成果として測るか決めきれていない経営企画の方
ブランディングの投資対効果を社内で説明する必要があるマーケティング責任者の方
採用と顧客獲得の両方をブランディングで解決しようとしている方
前提となる3つの用語
CVRとは
CVRとはコンバージョン率のことで、接触した人のうち目的の行動に至った割合を示す指標である。ブランドを知っていて信頼している状態の顧客は、同じ施策に触れたときの転換率が高くなるため、ブランド投資の効果を測る接点として使われる。
機関投資家とは
機関投資家とは、顧客から預かった資金を運用する法人の投資家である。年金基金や投資信託の運用会社などが含まれる。一般の消費者とは異なる期待や疑念を持つため、伝える内容の設計も別に考える必要がある。
態度変容とは
態度変容とは、顧客の認識や評価が変わることである。購入という行動の手前にある段階で、認知、理解、好意、購入意向といった形で観測される。広告の役割をこの段階の支援として捉えると、測るべき指標が定まる。
論点の背景
ブランディングを乱暴に定義すると、顧客市場、労働市場、投資家市場といった相手の頭のなかに識別のための記号と受け取ってもらいたい価値を浸透させる活動の全体になります。この定義から分かるのは、相手が変われば施策も指標も変わるということです。
顧客の獲得と維持を目的とする場合、測るべきは認知度や好意度、購入意向に加えて、転換率、顧客単価、顧客生涯価値への影響です。この目的に対して社会的意義を掲げる手法が効くのは、そのメッセージが購買に転換する顧客層とブランドの性質を備えている場合に限られます。
一方、採用や社員の意欲を対象とする場合は、働くことで得られるキャリア、社内の風土、企業の存在意義を定義して発信する重要度が上がります。成果は応募数、採用の数と質、社員の定着で測ります。投資家を対象とする場合は、業態の理解と競争優位をいかに短時間で伝えるかが論点になります。
東京証券取引所は2025年9月26日、グロース市場の上場維持基準について上場から5年経過後の事業年度末に時価総額100億円以上とする見直しを公表しました。見直し前は上場から10年経過後に40億円以上で、2030年3月1日以後に適用されます。 出典:東京証券取引所「グロース市場の上場維持基準の見直し等について」(2025年9月26日)
実務での判断軸
1.どの相手からどの成果を引き出すのかを決めたか。 顧客、労働市場、投資家のどれを主たる対象にするかを先に決めます。ここを決めないまま着手すると、施策の範囲が広がり、相談する相手の選定まで誤ります。優先順位をつける作業が入り口になります。
2.その対象に合った指標を置いたか。 顧客が対象なら転換率と顧客単価と顧客生涯価値、労働市場なら応募と採用と定着、投資家なら理解の速さと評価の変化を見ます。対象が変われば指標も変わるため、指標を先に固定してはいけません。
3.パーパスを顧客獲得の手段にしていないか。 社会的意義の発信が購買につながる顧客層とブランドの性質は限られます。商品ブランドごとにパーパスを設ける運用は、顧客獲得の観点では効果が限定的です。用途を採用と投資家向けに絞る判断が現実的です。
対象を1つに絞る必要はありませんが、優先順位は付ける必要があります。投資家向けは、業績が伴う前提のうえで投資額の回収余地が大きい領域です。上場維持の基準が引き上げられたことで、この対象の重要度は今後も上がる見通しです。
編集部おすすめポイント
パーパスをめぐる議論は、制定すべきかどうかという二択で語られやすい領域です。本編では、対象とする相手ごとに施策と指標を分ける枠組みが示されています。自社が何を測るべきか決めきれていない場合の整理として読めます。
悪魔の事典
書き出し
本編の続きで読めること
ここでご紹介したのは、判断の枠組みにあたる部分です。本編では、次の問いに対する答えが示されています。
顧客を対象としたブランディングでは、どの順に指標を追うのか
テレビ広告の投資は、どの水準を保てれば成果があったと言えるのか
パーパスが採用と投資家に効くのは、 どのような理由からか
投資家向けの取り組みは、どのように評価を確かめるのか
本編は日経クロストレンドの有料会員限定記事です。
よくある質問
Q.パーパスを制定してはいけないということでしょうか。
A.そうではありません。採用 活動や投資家に対して自社の価値を端的に伝える用途では有用です。問題になるのは、顧客の獲得や維持を目的に掲げた場合です。何のために制定するのかを先に決めれば、置くべき指標も定まります。
Q.対象を1つに絞らなければならないのでしょうか。
A.絞る必要はありませんが、優先順位は必要です。対象ごとに施策と指標が変わるため、同時に並べると予算の配分と成果の判定ができなくなります。どこから成果を引き出したいかを順序づけてください。
Q.投資家向けのブランディングは、上場企業だけの話でしょうか。
A.株式公開を控えた企業や、事業売却を見据えた場面でも取り組まれています。上場維持の基準が引き上げられたことで、認知が得られず投資の検討対象に入っていない状態を解消する必要性は高まっています。
執筆者
インサイトフォース編集部 | ブランド戦略とマーケティング組織の設計を専門とする編集部が、掲載記事の論点を実務で使える形に整理しています。 |
掲載情報
媒体 | 日経クロストレンド |
記事 | ブランディングの正しい成果指標 「パーパス」の売り上げ貢献は限定的 |
掲載形式 | 寄稿(特集の補足) |
公開範囲 | 日経クロストレンド有料会員限定 |
